SFXVI開発講座グラフィック編(平成7年睦月号掲載)

第三回

 さて今回は、ドット絵の描き方講座です。 と言っても、私はそんなに上手いわけではないので基本的なことしか書けません。

 というわけで、私の手によるグラフィック編は今回で終わりです。

 人物のドット絵を描く時に気をつけなければならない点はいくつかあります。  まず、ドット比の問題です。ドットの形が正方形でないというのは色々と不便なのですが これはどうしようもありませんから、あきらめましょう。
 スプライトエディタの機能で、パターンを回転させることが出来たりしますが、 ドット比を考慮して回転させたりはしないので注意が必要です。 単純に90゜回転すると、横長になってしまいます。

「スケールを一定に」
 これにはよく気をつけましょう。特定のセルだけひとまわり大きくなったり、 というのはよくあることです。常にほかのセルと見比べて描くしかありません。

「光源の方向」
 これはドット絵に限ったことではありませんが、光源の方向、 つまりハイライトの出来る位置と影の出来る位置はそろえなければおかしなことになります。

「なるべく使い回しをしない」
 例えば足払いの様な小技で、膝より先だけ違うパターンを用意する、 というのは控えた方がいいでしょう。 動かしてみるとわかると思いますが、これでは動きが小さくせこせこした動きにみえてしまいます。 小技でさえそうなんですから、大技はなおさらです。
 SFXVIでは膝から先だけ描き換えたセルを用意するのと、まるっきり新しいセルを用意するのとで、 差はありません。
 もちろん、大変な手間がかかりますが。

「身体の比率」
 実写取り込みより手書きグラフィックのゲームの方が、動きがきれいに見えるのはなぜでしょう? これには二つ理由があると考えられます。よく聞く話だと思いますが「自動車のプラモデルは実物とはかなり違った形をしている」これです。 実際の人間の手足の長さの比率を忠実に再現して画面上に表示させてみると異様に不格好に見えるのです。 サイズが違うと見るところも自然と変わってしまうんですね。
 もう一つの理由はデフォルメです。実写取り込みではデフォルメは効きませんが、 手書きなら思いのままです。こんなポーズは実際の人間では膝が曲がってしまう、 というポーズでも手書きなら思いのままですし、それによって格好よく見えるようになったりします。 実際の人間には不可能なポーズでも絵で見る分には不自然さを感じないというのはよくあります。
 「実写取り込みの波動拳のポーズは腰が入っていない」という声はよく聞かれると思いますが、 実際の人間にはあれくらいが限界なのかもしれません。春麗の気功拳のポーズだって実際の人間には無理でしょう。

せっかくなのでサンプル画像を使って解説してみましょう。(画像をクリックすると拡大画像を見れます)

 ドット絵を描く際の手順を解説します。 なお、これはあくまで一例ですからほかの方法だっていくらでもありますし、 別の方法のが描きやすいという人もいるでしょう。自分なりに研究してみましょう。

例1  いきなり描きはじめると手足の長さやスケールがばらばらになるおそれがあるので 例1の様に、骨格を先に描いてしまいます。これは手足の長さや形がだいたいわかる程度で十分でしょう。
 最初にこうやって描いてしまえば、気が付いたら手が長すぎたとかそういう失敗が少なくなると思います。

例2  続いて例2のように適当に肉付けをします。ポーズはだいたいこの段階で確定してしまいます。 つまりキャラに組み込んで動きのチェックが出来るレベルですね。
 この段階ではポイントとなる部分がはっきりとわかる程度まで描き込みます。 ポイントというのは左右の腕や足などが判別出来るかどうかという点です。 右と左で色を変えておくのもいいでしょう。
 また、拳や爪先などもはっきりとわかるようにしておいた方がよいでしょう。

例3  そして例3で完成です。

例4  ここでは肌色の塗り方について説明します。露出度の高低にかかわらず肌色は非常に重要です。 テレビで色合いを調節する時も、普通肌色がきれいに見えるかを基準にしていますよね。
 肌色さえきれいなら他が多少おかしな色でも気にはならないものです。

 さて、そういうわけで例4をみてください。これはゲームのドット絵とは全然関係無いのですが、 肌色の塗り方のサンプルとして挙げさせてもらいます。
 肌色に5色使っているのがわかるでしょうか? ハイライト、メインカラー、影1、影2、境界色の5色です。 セル画調の塗り方としてはかなり贅沢に色を使っています。 色数に余裕があればこれくらい力を入れてもいいと思います。
 が、X680x0では透明色も含めて16色までという制限がありますから、難しいものがあります。

例5
例6
 そこで、例5と例6を見比べてください。例5はハイライトがない代わりに影に2色使っています。 例6はハイライトを入れる代わりに影を1色にしています。 どちらも肌色に3色使っていますが、雰囲気の違いが感じとれると思います。

 例5と6では使っている肌色も全て違っています。 例5の色使いでハイライトを入れてしまうと明るくなりすぎてしまいます。 また、例6で影に1色追加すると、その色は暗すぎる影、 あるいは明るすぎる影のどちらかになってしまいます。
 使える色数に応じて色合いを変えることも重要です。色の選択には細心の注意を払いましょう。

 ゲームにおいて最も重要なのが動きです。 絵が多少下手でもしっかりと動かせば見栄えがすると思います。 ヴァンパイアなどは絵は比較的シンプルですが膨大な枚数のセルと緻密な動きで、 強力な存在感を感じさせます。(逆なのがSN系で両方駄目なのが豪快○・・・)

 ヴァンパイア並の枚数を用意するのは不可能に近いので、 少ない枚数で何とかしなければなりません。

 直立時のアニメーションは最も目につく動作なので重要度はかなり高いでしょう。 セル枚数は3枚が最低ラインと考えるべきです。2枚は極力避けた方がいいでしょう。
 また、膝から上だけが上下にカクカク動くだけでは見た目が悪いのでなるべく避けましょう。 身体が上下に動けば腕はその影響をうけて動くはずです。

 実際にどんな絵を用意すればいいのか、ということですが、これは一連の動作のなかで、 ポイントとなる部分をしっかりと見極めます。攻撃動作であれば、攻撃判定をもっているポーズですね。 アイドル時のポーズとそのポーズとの間で中割りをします。 中割りを何枚にするかは臨機応変に対処しましょう。 パンチやキックなどの比較的単純な動作であれば中割りは1枚で足りるかもしれません。
 複雑な動作であればポイントとなる動作は増えるはずですから、それを参考に中割りを用意します。

例7
 例7をみてください。これはセーラームーンのエンディングで実際に使われているDSPデータです。
 この動作のポイントは腕を交差させて上にあげる、決めポーズ直前のタメ、 決めポーズの3つにあると判断しました。そこから2,5,6番目のセルがポイントになりました。 そこから、アニメーションをさせる上で、滑らかな動きにするために中割りとして1,3,4番目のセルが描かれました。

 アニメーションが滑らかかどうかを調べるには、やはり動かしてみなければわかりません。 アニメーション機能のないエディタはこういった作業には不向きであるといえるでしょう。


例8  例8をみてください。これもまた実際に使われているパターンです。いわゆる弱足払いというやつです。 こういった動きの場合、膝の先だけ描き換えたパターンを使えば済みそうな気がします。 が、そういうパターンは動かしてみるとかなり変に見えるのではないでしょうか。
 実のところ、小さい動きほどアニメーションに気を使うものなのです。 動きの悪いゲームというのはたいてい、ここが悪いようです。
 ジャブのような技なら腕だけしか動いていなくても、違和感はありませんが、 普通の技は全身が動いているものです。 また、動きが大きい割にスピードが早い場合もうまくセルを用意しないといけないでしょう。

 最後にオリジナルキャラクターをつくる場合の、 デザイン上の注意点について説明してみましょう。

 最大の注意点は、動かした時に面白いデザインであること、です。 静止画でみると凝っていて面白いデザインでも、動かしてみて見栄えがするとは限りません。 この辺で失敗しているゲームも多いと思います。 「キャラクタデザインに漫画家を起用」なんていうのは失敗のもとですね。

 では動かして見栄えがするデザインとはどんなものでしょう? よく聞く話だと思いますが「マリオのデザインは、腕がわかりやすいようにオーバーオールを着せ、 顔を目立たせるために鼻を大きくして髭をつけた」のだそうです。 この話からもわかるように身体の各部分がはっきりとわかるようなデザインが好ましいといえます。

 また、極端なデフォルメや強烈な個性も重要です。これらは例をあげた方がわかりやすいでしょう。

春麗:静止画で見ても凝ったデザインですね。太股の太さや、大きな腕輪もポイントです。 特に腕輪は、単体では主張の弱くなる拳を強調しています。

ガイル:外見の特徴といえばあの髪型でしょう。 初代スト2とダッシュを比べるとダッシュの方が拳が大きくなっているのは春麗と同じ理由でしょう。

キャミィ:手足にグローブ等をつけているのは動きがはっきりわかるようにするためですね。 三つ編みは身体全体の動きに影響して動くので、見た目に面白い上、 移動速度などの情報を得ることが出来る。

ナインハルト・ズィーカー:これ以上ハゲ頭を増やしてどうするのか。 大きいキャラが大きい得物を持っても、効果半減。

ナコルル:大きな手は動きがわかりやすい。真っ赤なリボンは性格を表している。

不知火舞:手足が細く特徴に欠けるので、動かしても面白みに欠ける。

ホン・フゥ:ヌンチャクを持っているとはいえ、パッと見に判別出来ないので特徴とは言えない。 全体的に特徴がなくつまらない。


 以上は、私がそう感じただけなのでデザイナーの意図とは違っているかもしれません。 ヴァンパイアのキャラは人間でないという利点を最大限に利用した動きで面白いですね。

 といったところで、グラフィック編は終わりにさせていただきます。 今後は〜〜さんにドット絵描きの秘技を伝授してもらう、という形で続くといいんですが。

 ドット絵って制限がある分、描きやすかったりするんですよね。こわがらずに挑戦してみましょう。 キャラが完成するころには腕もかなりあがっていることでしょう。

 タキシード仮面様とデイジーはこの講座のためだけに描きました。 期待された方、すいません。でも、描いてて楽しかったです。

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